「いい話をしているはずなのに、社員の反応が薄い」
「朝礼で話しても、翌週には誰も覚えていない」
「想いは人一倍あるのに、伝わっている手応えがない」
経営者のみなさまから、よくこう伺います。
結論から申しあげます。刺さらない理由は、話し方でも声でもありません。正しいことを話しているからです。
正しい話は、記憶に残らない
「お客様第一で」「挑戦を恐れずに」「感謝の気持ちを持って」。どれも間違っていません。間違っていないからこそ、誰の心にも引っかからずに通り過ぎていきます。
人が覚えているのは、正しさではなく具体的な場面です。
ある社長は、朝礼で「お客様第一で」と話すのをやめ、代わりにこう話されました。
「創業した年の冬、注文をいただいた商品を、私が配送を間違えて別のお客様に届けてしまったことがあります。深夜に取りに戻って、翌朝に頭を下げに行きました。そのお客様が、いまも取引を続けてくださっています」
この話は、社員の方々の記憶に残りました。「お客様第一」という言葉より、はるかに強く。
語るべきは、成功ではなく分岐点
もうひとつ、多くの経営者が陥りやすい点があります。うまくいった話ばかりを選んでしまうことです。
けれど聞き手が引き込まれるのは、迷ったこと、失敗したこと、それでも選んだことです。順風満帆な話には、聞き手が自分を重ねる隙間がありません。
創業のとき何をあきらめたのか。いちばん苦しかった月をどう越えたのか。そこにこそ、その会社にしかない言葉が眠っています。
朝礼で使える、三分の型
長い話をされる必要はありません。次の順番で、三分あれば十分です。
- いつ、どこで、何が起きたか(具体的な場面をひとつだけ)
- そのとき自分は何を思い、どう決めたか
- だからいま、みなさんに何を伝えたいか
この順番が大切です。多くの経営者は、三つめの「伝えたいこと」から話し始めてしまわれます。結論から入るのはビジネス文書の作法であって、人の心が動く順番ではありません。場面から入ると、聞き手は自然に続きを聞きたくなります。
もうひとつ。社員のみなさまは、社長の完璧な姿を求めてはいません。むしろ「この人も同じように迷ったのか」と分かった瞬間に、距離が縮まります。強がらなくてよいのです。
そして、同じ話を何度されても構いません。創業の話を毎年されている社長の会社ほど、社員が同じ話を語れるようになります。会社の言葉は、繰り返しでしか根づきません。
まとめ
- 刺さらないのは話し方の問題ではなく、正しいことを話しているから
- 人が覚えているのは理念ではなく、具体的な場面
- 成功談より、迷いや失敗を含む分岐点のほうが伝わる
- 語る材料は、経営者ご自身の過去のなかにすでにある
私が経営者のみなさまと最初に行うのは、話し方の練習ではありません。インタビューです。ご自身では当たり前だと思っておられる出来事のなかに、社員やお客様の心を動かす言葉が必ず埋まっています。
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